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神戸地方裁判所 昭和29年(行)20号 判決

原告 市塚良祐

被告 神戸税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が原告に対し昭和二十八年四月三十日付でなした昭和二十七年度分の所得金額を金三十四万二千八百円、所得税額を金五万四千二百円とする更正決定処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、」との判決を求め、その請求原因として原告は肩書地でパン加工業を営んでいるが、被告に対し昭和二十七年度分の所得金額を金十一万八千七十四円、所得税額を零として夫々確定申告したところ、被告は昭和二十八年四月三十日付で右原告の所得金額を金三十四万二千八百円、所得税額を金五万四千二百円と更正決定した。そこで原告は法定期間内に被告に対し再調査の請求をしたが棄却されたので更に大阪国税局長に適法に審査の請求をしたところ、同国税局長は昭和二十九年四月十日付で被告のなした更正決定処分を一部取消して原告の所得金額を金二十八万六千円所得税額を金三万六千八百円と訂正した、しかし原告の昭和二十七年度の所得金額は金十一万八千七十四円所得税額は零であつて被告のなした更正決定処分は違法であるからその取消を求める為本訴請求に及んだと述べ、被告の主張に対し、

一、収入金額について

被告主張の如く原告の昭和二十七年中の小麦粉の仕入袋数が総計七百七十袋であること、食パン・菓子パンの製造割合が小麦粉一袋につき各二一・四瓩及び〇・六瓩であること、食パンの販売割合が卸売三十パーセント・小売七十パーセント・菓子パンは全部小売であること及びその販売価格が食パン一本につき卸売五十円、小売六十円、菓子パン一個につき小売十円であることは認めるがその余の事実は争う、被告は原告の仕入れた小麦粉全部が食パンと菓子パンに製造された如く主張するが原告が営業しているのは市場内であり附近に米屋がない関係から右小麦粉のうちにはパン原料とせずに小麦粉の儘販売するものもありその販売数量は一日約五百匁年間営業日数三百五十日として総計約三十袋となるから食パン及び菓子パンの製造原料とした小麦粉は総計七百四十袋に過ぎず、又小麦粉一袋からの食パンの出来高は三十本、菓子パンの出来高は四百個に止まり原告主張の如く食パン三十二本、菓子パン五百個も製造している事実はない。そして右に従つて計算すれば食パン・菓子パンの販売による総売上高は金百三十一万三千四百九十円となり又小麦粉の販売による売上高は販売価格百匁二十二円であるから一袋千二百八十円三十袋分合計三万八千二百八十円となり原告の昭和二十七年度の総収入金は右合計金百三十五万千七百七十円であつて被告主張の如く金百四十七万千八十円ではない。

二、仕入金額について

原告の昭和二十七年中の仕入金額は(1)小麦粉七百七十袋金八十三万三千九百二十三円の外、(2)イースト七百七十本金四万五千円、(3)バター三十箱金九万九千円、(4)砂糖八百二十八斤金八万三百十六円、(5)その他塩フード玉子等合計金三千円以上合計金百六万二百三十九円である、しかるに被告がバター・イースト等の副材料の仕入額を不明として一方的に他同業者の売買差益より逆算して原告の仕入金額を金百万六百三十円と計上したのは誤りである。よつて被告のなした更正決定処分は違法であるから取消さるべきであると述べた。(立証省略)

被告指定代理人等は主文同旨の判決を求め答弁として原告の主張事実中原告がパン加工業を営んでいること、被告が原告のなした昭和二十七年度の所得金額及び所得税額の確定申告に対し原告主張のとおり更正決定をしたこと及びこれに対する再調査請求を棄却したこと、そこで原告は更に大阪国税局長に審査の請求をしたところ同国税局長が被告のなした更正決定を原告の主張通り変更したことは認めるがその余の事実は否認する、原告は昭和二十七年度の所得に関する収税官吏の調査に際しその事業にかかる適確な証拠書類も帳簿も保存せずたゞ仕入の一部を保存するのみで原告申立の所得金額算出の根拠は全く不明であつたので被告は左の如き資料に基いて原告の所得金額を算出しこれに基づいて更正決定をしたのであるから右決定は適法である。

一、総収入金額

原告の申立及び調査時の製造状況等からして原告の昭和二十七年度の年間小麦粉の仕入袋数は合計七百七十袋で、その食パンと菓子パンとの製造割合は小麦粉一袋二十二瓩につき食パン二一・四瓩、菓子パン〇・六瓩であり又小麦粉一袋当りの出来高は食パン三十二本、菓子パン五百個である、従つて小麦粉七百七十袋からの食パンの総出来高は二万三千九百六十八本、菓子パンの総出来高は一万五百個となる。次に食パンの販売割合は卸売三十パーセント、小売七十パーセント、菓子パンは全部小売であり、又食パンの卸売価格は一本五十円小売価格は六十円、菓子パンの小売価格は一個十円であるから以上に従つて計算すれば食パンの卸売々上高は金三十五万九千五百円、同小売々上高は金百万六千六百八十円、菓子パンの小売々上高は金十万五千円となり以上合計金百四十七万千百八十円が原告の昭和二十七年中の総収入金である。

二、仕入金額

仕入金額については小麦粉七百七十袋の仕入金額は金八十三万三千九百二十三円であるがその他の副材料であるバター・砂糖・イースト等の仕入額については全く不明であるので被告は結局他の同業者の売買差益より逆算して総仕入金額を金百万六百三十円と認定した。即ち食パンの卸売による一般売買差益は売上百円に対し二十三円、同小売による売買差益は売上百円に対し三十五円四十銭、菓子パンの小売によるそれは売上百円に対し三十円であるところ、前述の如く原告方の食パンの卸売々上高は金三十五万九千五百円、同小売々上高は金百万六千六百八十円、菓子パンの小売々上高は金十万五千円であるからこれに右各売買差益を適用して仕入原価を逆算すれば計金百万六百三十円となりこれが原告の昭和二十七年中の仕入金額である。

三、必要経費

原告方の経費は(1)動力費金五万千五百七十円(2)消耗品費金六千円(3)修繕費金千三百円(4)火災保険料金千八百円(5)水道光熱費金六万九千三百二十八円(6)公租公課金三万四百四十円(7)地代金千五百円の外(8)減価償却費については原告は固定資産税の減価償却費の選定届出をしなかつたので減価償却の方法は定額法によることとし原告の建物取得価格金七万五千円についてその償却費が毎年同一となるよう当該建物の耐用年数三十年に応じて比率〇・〇三四を乗じた金額金二千二百九十五円を減価償却費と認め、以上合計金十六万四千二百三十三円がその必要経費である。

尚原告の年初たな卸資金及び年末たな卸資金はともに金一万五千円である。

以上に従つて収支を差引計算すれば原告の昭和二十七年度の所得金額は金三十万六千三百十七円となり被告のなした更正決定のうち大阪国税局長の審査決定により変更せられた所得金額二十八万六千円を上廻るから右処分には何等の違法はないと述べた。(立証省略)

理由

原告は肩書地でパン加工業を営んでいる者であるが被告に対し昭和二十七年度分の所得金額を金十一万八千七十四円所得税額を零として夫々確定申告をしたところ被告は昭和二十八年四月三十日付で右原告の所得金額を金三十四万二千八百円所得税額を金五万四千二百円と更正決定をしたこと、そこで原告は法定期間内に被告に対し再調査の請求をしたが棄却されたので更に大阪国税局長に適法に審査の請求をしたところ同国税局長は昭和二十九年四月十日付で被告のなした右更正決定を一部取消し原告の所得金額を金二十八万六千円、所得税額を金三万六千八百円と訂正変更したことは当事者間に争ない。そこで原告の昭和二十七年度の所得金額について判断する。

一、総収入金額

原告が昭和二十七年中のパン原料として小麦粉七百七十袋を仕入れたこと、原告方の食パンと菓子パンとの製造割合は小麦粉一袋二十二瓩につき食パン二一・四瓩菓子パン〇・六瓩であることは当事者間に争ない。原告は右小麦粉七百七十袋のうち三十袋は小麦粉としてそのまゝ販売したと主張するがこれを認定するに足る適確な証拠はなく却つて証人柴村晋の証言によれば同人が原告方に所得税の調査に赴いた際原告は何等右事実を申立てなかつたのみならず当時原告方店頭では小麦粉を販売していた様子もなかつたことが窺れるから右仕入にかゝる小麦粉は全部パンの加工に使用されたものと認むべく、又証人柴村晋の証言により成立の認められる乙第四号証の三、及び五、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第六号証成立に争ない乙第七号証の九並びに証人柴村晋の証言を綜合すれば一般に小麦粉一袋を原料とする食パンの出来高は少くとも三十二本菓子パンの出来高は五百個であることが認められ他に右認定をくつがえすに足る証拠はないから右各一袋当りの出来高を以て原告の年間総製造数量を推計する基準とすることは合理的であると云わねばならぬ。従つて昭和二十七年中の原告方のパンの年間出来高総計は食パン二万三千九百六十八本、菓子パン一万五百個であつたことはその計算上明らかなるところ、右食パンの販売割合は卸売三十パーセント小売七十パーセント、菓子パンは全部小売であること及び食パンの卸売価格は一本五十円小売価格は六十円菓子パンの小売価格は一個十円であることは当事者間に争なく以上の事実に基づいて計算すれば食パンの卸売々上高は金三十五万九千五百円、同小売々上高は金百万六千六百八十円、菓子パンの小売々上高は金十万五千円となり以上合計金百四十七万千百八十円が原告の昭和二十七年中の総収入金である。

二、仕入金額

小麦粉の仕入金額が金八十三万三千九百二十三円であること及び原告が右小麦粉の他に副材料としてバター・イースト・砂糖等を仕入れたことは当事者間に争ない、原告は右副材料の仕入金額は合計金二十二万七千三百十六円であると主張するがこれを認定するに足る資料はないから結局総仕入金額の合理的な推計方法としては一般の売買差益率を適用して総売上金額より逆算するところ成立に争ない乙第七号証の六乃至九に弁論の全趣旨を綜合すれば一般同業者の食パンの卸売による売買差益は売上百円に対し平均二十三円、菓子パンの小売による売買差益は少なくとも百円に対し三十円以上であることが認められ、又食パンの小売による売買差益は食パン一本の卸売価格が五十円、小売価格が六十円であるから右食パンの卸売差益二十三円より計算して売上百円に対し三十五円四十銭を上廻ることも明白である。そして前認定の如く原告方の昭和二十七年中の食パンの卸売々上高は金三十五万九千五百円、同小売々上高は金百万六千六百八十円、菓子パンの小売々上高は金十万五千円であるからこれに右各売買差益を適用して仕入原価を逆算すれば金百万六百三十円となりこれが原告の昭和二十七年中の仕入金額と云わなければならない。

三、必要経費

原告の昭和二十七年中の経費が(1)動力費金五万千五百七十円(2)消耗品費金六千円(3)修繕費金千三百円(4)火災保険料金千八百円(5)水道光熱費金六万九千三百二十八円(6)公租公課金三万四百四十円(7)地代金千五百円の外(8)原告の建物の減価償却費が金二千二百九十五円であることは原告の明らかに争わないところである。

尚原告の年初たな卸資産及び年末たな卸資産がともに金一万五千円なることも原告の明らかに争わないところである。

以上認定の資料並に合理的な推計方法に従つて収支を計算すれば原告の昭和二十七年度の所得金額は金三十万六千三百十七円となり被告のなした更正決定のうち大阪国税局長の審査により一部取消されて変更された所得金額二十八万六千円を上廻ることとなるから右所得金額を基準として被告がなした更正決定処分には何等の違法はないとせねばならぬ。よつて右処分の取消を求める原告の請求は理由がないからこれを棄却し訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 河野春吉 石松竹雄 後藤勇)

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